地域づくりの新しい動き/岐阜大学地域科学部 富樫幸一
地方分権から市町村合併、そしてまちづくり会、地域運営組織など21世紀に入ってから多様な動きがみられることの報告も続けている。
「地方創生」は、竹下内閣のふるさと創生1億円事業でも行われていた。大分県で始まった「一村一品運動」も、地域の農業や産業の振興の取組みとして、すでに県内各地で行われ始めている(目で見る県内の村おこし事業 33号:1987年)。
生涯学習まちづくりで先進的な取組みを行っていた静岡県の掛川市については、榛村純一市長に自治研30周年事業(51号:1994年)で登場してもらった。世界遺産の白川郷をもって単独での存続を選んだ白川村については、谷口村長(93号:2009)が、広域的な連携を求めつつも「村民とともに世界遺産を守るためであった」と論じた。高い出生率や人口流入を起こしている長野県下條村の現地視察(96号:2010年)も行っている。恵那市においても、移住人口の受け入れに積極的な串原と三郷地区の視察を行った(116号:2016年)。
特定非営利活動促進法を受けて、県内でも最初のNPO法人となった「グッドライフサポートセンター」を住民の動きで紹介している(65・66号:1999年)。さらに、県のNPO支援の公益信託や、岐阜市の市民活動支援事業を紹介している(富樫幸一82号:2007年)。
平成の大合併前後から、広域化する市町村の中で、自治体内の分権的な住民組織による地域運営について、三重県を事例として岩崎恭典(77号:2005年)が紹介し、その後の島根県雲南市などで登場する小規模多機能自治へとつながる。関市の合併後、旧町村や旧関市内の小学校区にもとづいた地域委員会のスタートについても、土屋雅義(103号:2012年)が報告している。
人口減少は、高度成長期からの過疎化、一時の安定と90年代からの再加速化が、中山間地域の合併へと繋がった(飛騨地域については富樫 108号:2013年)。さらに2014年の「消滅可能性自治体」、2015年の「地方創生総合戦略」と問題の深刻化と新たな取組みの提起となった。その中でも国からの人材派遣を受けてユニークで積極的な取組みを行った池田町に派遣されていた早田清宏が住民と行政の連携を推進したことを紹介している(115号:2016)。
人口動向は、市町村単位、さらにはその中心部の空洞化や郊外化、合併後の農山村の衰退、そして出生率や特に進学・就職を迎える若年層の動向として、詳しく見ていく必要がある(富樫.115号:2016)。地方創生総合戦略が東京集中を止めることができなかった一方で、世代交代を行ってサステナブルな地域づくりも生まれていることを富樫(129号:2021年、133号:2022年)は展望した。
経済至上の開発主義から、地域の歴史や文化を大切にして、さらに魅力的な地域づくりへと向かっていくために、岐阜市のメディアコスモスと新しい岐阜市史(富樫、118号:2017)、高齢化や空き家の増加のなかでの町家を再生する新しいまちづくり(同、121号:2018年)、喫茶代日本一の岐阜市で、カフェだけでなくライブやワークショップなどで新しいサード・プレイスが次々と登場していること(同、123号:2019年)、市民協働のスタイルでの新しい岐阜市史の編さん(同、125号:2020年)と続けている。岐阜のまちづくりでともに関わった社会学者の山崎の業績を読み直すことで、コミュニティ論の新しい可能性についても論じている。かつでは40万都市で同程度だったはずの岐阜市と金沢市が、その後の開発主義から歴史的にも、また新しい文化としても方向転換できた金沢のあり方を、そこでの経験もある富樫(135号:2022年)で紹介している。
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